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失業保険の不正受給と3倍返しの条文

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この記事の見出し(10)
  1. 返還と納付は別のもの
  2. 「二倍以下」なので、必ず2倍ではない
  3. 会社が連帯して負う場合がある
  4. 事業主に対する処分は別の条にもある
  5. その日以後、基本手当が止まる
  6. 次の資格は別に立つ
  7. 時効は2年
  8. 督促されると、2年が数え直しになる
  9. 何が「偽りその他不正の行為」か
  10. まとめ

「不正受給をすると3倍返し」という言い方をよく見ます。

条文に「3倍」という言葉はありません。返還と納付という別々の処分が並んでいて、足すと最大で3倍になります。どちらも額に幅があり、命じること自体も「できる」と書かれています。

返還

  • 受け取った額の全部または一部

納付

  • 受け取った額の2倍に相当する額以下

違うのは何を求めるものか。返還は受け取った額そのもの、納付はそれとは別の処分で、足すと最大で3倍になる

不正受給で並んでいる2つの処分(雇用保険法10条の4第1項)。条文に「3倍」という言葉はない

時効は2年ですが、督促のたびに数え直しになります。以下、この2つが条文のどこに書かれているかを追います。

条文に「3倍」という言葉はありません。別々の2つが並んでいて、足すと最大で3倍になります。

返還と納付は別のもの

雇用保険法10条の4第1項です。

偽りその他不正の行為により失業等給付の支給を受けた者がある場合には、政府は、その者に対して、支給した失業等給付の全部又は一部を返還することを命ずることができ、また、厚生労働大臣の定める基準により、当該偽りその他不正の行為により支給を受けた失業等給付の額の二倍に相当する額以下の金額を納付することを命ずることができる。

「命ずることができ、また」で切れています。前と後ろは別の処分です。

  1. 受け取った額の返還(全部または一部)
  2. 受け取った額の2倍に相当する額以下の納付

1が1倍、2が最大2倍なので、合わせて最大3倍になります。これが「3倍返し」と呼ばれているものの中身です。

返還と別枠の追加納付(上限付き)という条文の構成を、法典アイコンから矢印で二つの枠に分けて示し、『3倍返し』という誤解をコインの塊に打ち消し印で表したイメージ図です

「二倍以下」なので、必ず2倍ではない

条文は「二倍に相当する額以下」です。上限を決めているだけで、いくらになるかは「厚生労働大臣の定める基準により」決まります。

返還のほうも「全部又は一部」と書かれています。どちらの処分も、額に幅を持たせた書き方になっています。

そのうえで、命じるかどうか自体も「命ずることができる」です。必ずこの処分がされる、とは条文に書かれていません。 実際にどう運用されているかは、ハローワークの案内で確かめてください。

会社が連帯して負う場合がある

同じ条の2項に、事業主などが出てきます。事業主・職業紹介事業者・指定教育訓練実施者が偽りの届出や報告や証明をしたために給付されたときは、政府はその事業主等に対し、受け取った本人と連帯して 納付するよう命じることができます。

離職票の記載を会社が事実と違えた場合が、ここに当たりえます。本人だけの問題では終わりません。

事業主に対する処分は別の条にもある

10条の4第2項は「連帯して納付」を定めていますが、事業主が偽りの届出をしたこと自体への扱いは、この条だけでは終わりません。

条文の並びを見ると、給付を受けた本人への処分(1項)、事業主等への連帯(2項)、納付を怠った場合の徴収(3項)の順です。1つの行為に対して、金銭を回収する道が3段に分かれています。

離職票の内容が事実と違うと思ったときは、受け取った側が黙って手続きを進めると、あとで本人の側に処分が向くことがあります。心当たりがあれば、認定の前にハローワークへ伝えておくほうが安全です。

その日以後、基本手当が止まる

金銭の処分とは別に、給付そのものが止まります。基本手当(失業手当)についての34条1項です。

偽りその他不正の行為により求職者給付又は就職促進給付の支給を受け、又は受けようとした者には、これらの給付の支給を受け、又は受けようとした日以後、基本手当を支給しない。ただし、やむを得ない理由がある場合には、基本手当の全部又は一部を支給することができる。

読むところを挙げます。

  1. 「受けようとした」も入っています。実際に振り込まれていなくても、申告の時点で該当します
  2. ただし書きがあります。やむを得ない理由があれば、全部または一部を支給できると書かれています。例外が条文の側に用意されています

次の資格は別に立つ

止まるのはその受給資格に基づく基本手当です。34条2項がこう続けます。

前項に規定する者が同項に規定する日以後新たに受給資格を取得した場合には、同項の規定にかかわらず、その新たに取得した受給資格に基づく基本手当を支給する。

また働いて新しく受給資格を取れば、そちらは支給されます。一度の不正で雇用保険から永久に外れるわけではありません。

時効が2年であること、事業主が連帯して負う場合があること、督促で時効が数え直しになること、基本手当がその日以後止まること、次の資格は別に立つこと、および何が「偽りその他不正の行為」かを、タイムライン、カレンダーや止水栓、鎖でつながれた事業所アイコン、督促の封筒と時計のリセット矢印、虫眼鏡で調べる書類などで示したイメージ図です

時効は2年

74条1項が、返還を受ける権利と納付させる権利の時効を定めています。どちらも行使できるときから2年です。

検索すると「5年」という数字も見かけますが、雇用保険法の条文は2年です。他の制度の時効と混ざっている可能性があります。根拠を確かめるときは、その制度の法律の時効の条を見てください。

なお、納付を怠ったときは徴収法27条と41条2項が準用されます(10条の4第3項)。督促と延滞金の規定です。放置しても額が減る方向には動きません。

督促されると、2年が数え直しになる

準用されている徴収法41条2項に、こう書かれています。

政府が行う労働保険料その他この法律の規定による徴収金の徴収の告知又は督促は、時効の更新の効力を生ずる。

告知や督促があると、2年がそこから数え直しになります。 時効は「2年放っておけば消える」という仕組みではありません。連絡が来た時点で、そこまでの経過はいったん消えます。

督促そのものは徴収法27条にあります。政府は期限を指定して督促しなければならず、督促状の期限は発する日から10日以上あとに置くと定められています。その期限を過ぎるとどうなるかも同じ条に書かれています。

第一項の規定による督促を受けた者が、その指定の期限までに、労働保険料その他この法律の規定による徴収金を納付しないときは、政府は、国税滞納処分の例によつて、これを処分する。

国税滞納処分の例なので、財産の差押えができます。 給付を受け取る権利のほうは11条で差し押さえられませんが、返還や納付を命じられた金は、こちらの規定で回収されます。

何が「偽りその他不正の行為」か

条文はこの言葉を定義していません。条文が示しているのは、申告すべきことを申告しなかった場合に問題になる、という点までです。

失業の認定では、就職や就労や内職の有無を申告します。1日だけの手伝いや、家業の手伝いも申告の対象になります。申告のうえで支給日数が調整されるので、申告そのものが不利になるとは限りません。

受給が始まる時期と認定の流れは失業保険は自己都合だといつからかにまとめました。迷ったらハローワークに聞くのが確実です。

まとめ

  • 条文に「3倍」は無い。返還(最大1倍)と納付(最大2倍)が別々に定められている
  • 納付は「二倍以下」で、額は厚生労働大臣の定める基準による
  • 会社が偽りの届出をした場合、会社が連帯して負うことがある
  • 「受けようとした」段階でも34条にかかる。ただしやむを得ない理由の例外がある
  • 新しく受給資格を取れば、そちらは支給される
  • 時効は2年(74条1項)。ただし督促で数え直しになる(徴収法41条2項)

条文は幅を持たせて書かれています。数字だけを覚えるより、どこに幅があるかを見ておくほうが役に立ちます。

出典