失業保険の受給期間は延長できる|起業したら止まる
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退職して事業を始めると、失業保険は受け取れなくなります。働いているので当然です。
ただ、そこで権利が消えるわけではありません。受給期間の進みを止めて、事業をやめたあとに受け取ることができます。
期間は原則1年で切れる
まず前提です。基本手当を受け取れるのは、離職の日の翌日から1年のあいだだけです(雇用保険法20条1項)。日数が残っていても、この1年を過ぎると受け取れません。
事業を始めると、その間はハローワークで失業と認定されません。何もしなければ、1年の時計だけが進みます。
- 離職の日の翌日
1年基本手当を受け取れる期間
日数が残っていても、この1年を過ぎると受け取れない(20条1項)
- 受給期間が終わる
- 事業を開始した日または専念し始めた日の翌日から2か月以内に申し出た
- その事業の実施期間は算入されない。最大4年まで延びる
- 申し出なかった
- 条文は「申し出た場合には」なので、黙っていても時計は止まらない

事業の期間を数に入れない
雇用保険法第20条の2が、この時計を止める仕組みを定めています。
受給資格者であつて、基準日後に事業(その実施期間が三十日未満のものその他厚生労働省令で定めるものを除く。)を開始したものその他これに準ずるものとして厚生労働省令で定める者が、厚生労働省令で定めるところにより公共職業安定所長にその旨を申し出た場合には、当該事業の実施期間(当該実施期間の日数が四年から前条第一項及び第二項の規定により算定される期間の日数を除いた日数を超える場合における当該超える日数を除く。)は、同条第一項及び第二項の規定による期間に算入しない。
長い条文ですが、骨は「事業をやっていた期間は算入しない」です。延ばすのではなく、その分だけ数えないという形になっています。
上限は4年です。括弧の中で、もとの期間と合わせて4年を超える分は除くと定めています。1年の受給期間なら、事業の期間として最大3年ぶんを止められる計算になります。
申し出ないと止まらない
条文に「申し出た場合には」とあります。黙っていても適用されません。そして期限が短いところが、いちばん落としやすい部分です。雇用保険法施行規則31条の6第3項です。
第一項の申出は、当該申出に係る者が法第二十条の二に規定する事業を開始した日又は当該事業に専念し始めた日の翌日から起算して、二箇月以内にしなければならない。ただし、天災その他申出をしなかつたことについてやむを得ない理由があるときは、この限りでない。
事業を始めた日の翌日から2か月です。開業届を出して落ち着いてから、では間に合わないことがあります。ただし書きに「天災その他やむを得ない理由」の例外はありますが、忙しかった、知らなかった、はここに入りません。
申出には登記事項証明書などの書類と受給資格者証を添えて、受給期間延長等申請書をハローワークへ出します。
30日未満の事業は対象にならない
条文の括弧に「その実施期間が三十日未満のものその他厚生労働省令で定めるものを除く」とあります。短期で終わる仕事は、そもそもこの特例の対象外です。
省令はさらに3つを除いています(施行規則31条の4)。
- 事業を始めた日から30日を経過する日が、もとの受給期間の末日より後になるもの
- その事業について再就職手当の支給を受けたもの
- その事業では自立できないとハローワークの長が認めたもの
2つ目が読者にとって効きます。
その事業について当該事業を実施する受給資格者が第八十二条の五第一項に規定する再就職手当の支給を受けたもの
再就職手当をもらった事業は、この特例を使えません。再就職手当は早く決まったときに残りの一部が出る給付で、起業でも要件を満たせば対象になります。どちらを取るかの選択になります。再就職手当の中身は再就職手当にまとめました。
辞める前に始めていた場合
副業として先に始めていて、退職後にそちらへ専念する場合もあります。施行規則31条の5が拾っています。
法第二十条第一項第一号に規定する基準日以前に事業を開始し、当該基準日後に当該事業に専念する者
始めた日ではなく、専念し始めた日が起点になります。2か月の期限も、専念し始めた日の翌日から数えます。
やめたときも届け出る
止めた時計を動かすには、こちらから知らせます。施行規則31条の6第5項が、受給期間延長等通知書の交付を受けた者に届出を求めています。
法第二十条の二に規定する事業を廃止し、又は休止した場合受給資格者証(当該者が受給資格通知の交付を受けたときを除く。)及び交付を受けた受給期間延長等通知書
「廃止」だけでなく「休止」も入っています。たたむと決めていなくても、実態として動かしていない状態になったら届け出る形です。
同じ項の1号には、申請書の記載内容に重大な変更があった場合も挙がっています。事業の内容が申請時と大きく変わったときは、そちらでも届出が要ります。
条文は「速やかに」としていて、日数を切っていません。始めるときの2か月とは書き方が違います。ただし届け出るまで時計は止まったままなので、受け取り始めたい側にとっては遅らせる意味がありません。

定年でも期間を延ばせる
事業とは別に、20条2項に定年退職者向けの規定があります。定年で辞めて、しばらく求職の申込みをしないことを希望する場合、申し出れば最大1年を足した期間になります。
こちらは「算入しない」ではなく「合算する」という書き方です。どちらも結果として受け取れる期間が延びますが、条文の作りは違います。
65歳以上で辞めた場合は、そもそも受け取るものが基本手当ではありません。高年齢求職者給付金は一時金で出るにまとめました。
開業届とは別の手続き
税務署に出す開業届と、ハローワークへのこの申出は別のものです。根拠になる法律も、出す先も違います。開業届を出したからといって、ハローワークの側で自動的に何かが起きるわけではありません。
条文が起点にしているのは「事業を開始した日」または「事業に専念し始めた日」で、開業届を出した日ではありません。届出が遅れても、2か月の数え始めは実際に始めた日のほうになります。
開業届そのものの期限と書き方は退職して独立するときの開業届にまとめました。
期間が延びても日数は増えない
延びるのは受け取れる期間であって、給付日数ではありません。所定給付日数(何日分もらえるか)は22条で被保険者だった期間と離職理由から決まっていて、この特例では動きません。
同じ「延長」という言葉で呼ばれる別のものの整理は失業保険の延長にあります。
まとめ
- 受給期間は原則1年。事業を始めた期間は算入しないことができる(法20条の2)
- 上限は4年。1年の受給期間なら最大3年ぶんを止められる
- 申出は事業開始の翌日から2か月以内。黙っていても適用されない
- 30日未満の事業、再就職手当をもらった事業は対象外
- 退職前に始めていた場合は、専念し始めた日が起点
- 延びるのは期間だけで、給付日数は増えない
事業がうまくいかなかったときの備えとして、先に申し出ておく仕組みです。