パワハラで退職したら会社都合退職になるか|省令にある
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パワハラで辞めると会社都合になるのか、という疑問には条文で答えが出ます。ただし「会社都合」という言葉は雇用保険の条文に出てきません。出てくるのは特定受給資格者です。
省令の8号に書いてある
特定受給資格者を定めているのは雇用保険法23条2項です。1号が倒産で、2号がこう書かれています。
前号に定めるもののほか、解雇(自己の責めに帰すべき重大な理由によるものを除く。第五十七条第二項第二号及び第六十条の四第二項第二号において同じ。)その他の厚生労働省令で定める理由により離職した者
「その他の厚生労働省令で定める理由」の中身が、雇用保険法施行規則36条です。そこに11の号が並んでいて、8号がこれです。
事業主又は当該事業主に雇用される労働者から就業環境が著しく害されるような言動を受けたこと。
「パワハラ」という語は使われていません。書かれているのは「就業環境が著しく害されるような言動」です。
同じ36条には、9号として「事業主から退職するよう勧奨を受けたこと。」もあります。退職勧奨も別枠で入っています。

誰からの言動かで、範囲が2つある
8号の主語は2つに分かれています。
会社そのもの
- 8号の書き方は「事業主」
同僚や上司
- 8号の書き方は「当該事業主に雇用される労働者」
違うのは主語だけで、どちらも8号に入る。上司から受けた場合も同僚から受けた場合も後半にあたる
上司から受けた場合も、同僚から受けた場合も、後半に入ります。会社が知っていたかどうかは、8号の要件になっていません。
防止義務のほうは言葉が1つ違う
パワハラの防止を事業主に義務づけているのは、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)の30条の2第1項です。
事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2つの条文を並べると、言葉が1つ違います。
| 条文 | 就業環境が |
|---|---|
| 労働施策総合推進法30条の2 | 害される |
| 雇用保険法施行規則36条8号 | 著しく害される |
「著しく」がある分だけ、離職理由として認められる範囲のほうが狭くなります。 会社が防止措置を取るべき場面のすべてが、そのまま特定受給資格者になるわけではありません。ここを同じものとして読むと、期待が外れます。
相談したことで不利益を受けない
30条の2は2項も置いています。
事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
相談したこと自体を理由に解雇することはできません。「協力した際に事実を述べたこと」も入っているので、自分が受けた側でなく、聞かれて答えただけの人も対象です。
社内の窓口に相談すると立場が悪くなる、という心配はよく聞きますが、条文はその不利益取扱いのほうを禁じる形になっています。
社外の窓口は労働局
会社の中で解決しない場合、行き先は都道府県労働局です。30条の5にこう書かれています。
都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。
「双方又は一方から」なので、こちらから求めるだけで動きます。さらに30条の6は、当事者の申請があれば紛争調整委員会に調停を行わせるとしています。
この2つは、パワハラのために別に用意されたものです。30条の4が、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律の一般規定を適用せず、30条の5から30条の8までによると定めています。
窓口の場所と扱う範囲は退職相談は無料の公的窓口でできるにまとめました。
罰則ではなく、公表
この法律に、パワハラをした会社への罰金や懲役はありません。代わりに置かれているのが33条です。
厚生労働大臣は、第三十条の二第一項及び第二項(第三十条の五第二項及び第三十条の六第二項において準用する場合を含む。第三十五条及び第三十六条第一項において同じ。)の規定に違反している事業主に対し、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる。
順番は、助言または指導または勧告が先で、それに従わなかったときに公表です。1回の違反でいきなり公表されるものではありません。
読む側にとって効くのは、公表されるのは「勧告に従わなかったこと」という点です。措置を取っていない会社がすべて名前を出されるわけではないので、公表の一覧に載っていないことは、何もしていない会社の証明にはなりません。
また36条1項は、厚生労働大臣が事業主に報告を求められるとしています。労働局に相談したことが、この報告や助言のきっかけになります。

働く側にも努力義務がある
30条の3は、国・事業主・労働者それぞれの責務を書いています。最後の4項が、働く側についての規定です。
労働者は、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない。
「他の労働者に対する言動に必要な注意を払う」なので、役職のあるなしを問わず、全員に向けられています。条文の建て付けとして、パワハラは上司だけの問題にされていません。
同じ条の3項は、法人の場合はその役員も自ら注意を払うよう努めなければならない、としています。経営者自身が対象から外れる書き方にはなっていません。
いずれも「努めなければならない」なので、違反しても直接の効果はありません。効果があるのは30条の2の措置義務のほうです。
判定するのはハローワーク
離職票に自己都合と書かれていても、そこで決まりではありません。判定するのはハローワークで、手順は離職理由はハローワークが判定するにまとめました。
特定受給資格者になると何が変わるかは、体調や家庭の事情で辞めた場合の特定理由離職者との違いも含めて特定理由離職者は条文では2種類しかないに書いています。
何を残しておくか
8号は「言動を受けたこと」を要件にしているので、受けたことが分かる材料が要ります。
- 日時と、誰から、何を言われたか
- 同じ場にいた人
- 社内の窓口に相談した記録(30条の2第1項が体制の整備を義務づけているので、窓口はあるはず)
- 労働局に援助を求めた記録
診断書がある場合はそれも材料になりますが、8号の要件は健康を害したことではありません。言動のほうです。
賠償や慰謝料を求める段になったら
離職理由の判定と、加害者や会社に賠償を求めることは別の手続きです。報酬を得て他人の代わりに請求できるのは弁護士だけで、根拠は弁護士法72条です。運営元ごとにできることが違うので、範囲は退職代行|弁護士と労働組合の違いにまとめました。
先に労働局の援助と調停を使ってください。費用がかからず、30条の5と30条の6はパワハラのために置かれた手続きです。
まとめ
- 雇用保険の条文に「会社都合」という語は無い。あるのは特定受給資格者(法23条2項)
- 中身は施行規則36条にあり、8号が「就業環境が著しく害されるような言動」
- 事業主からでも、同僚や上司からでも8号に入る
- 防止義務(労働施策総合推進法30条の2)は「害される」で、省令は「著しく害される」
- その1語の分だけ、離職理由として認められる範囲は狭い
- 相談したことを理由とする解雇その他の不利益取扱いは30条の2第2項で禁じられている
- 社外の窓口は都道府県労働局。助言・指導・勧告(30条の5)と調停(30条の6)がある
- 判定するのはハローワークなので、離職票の記載で終わりではない