退職代行を弁護士に頼むか|労働組合との違い
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「組合なら交渉できる」の根拠が書かれていない
退職代行を調べると、運営元によって対応できる範囲が違う、という説明に行き当たります。労働組合や弁護士なら有給や退職日の交渉まで頼めるが、そうでないところは意思を伝えるところまで、という区別です。
ここで引っかかるのは、なぜ勤め先と関係のない団体が、自分の代わりに会社と交渉できるのかという点です。会社と雇用契約を結んでいるのは自分であって、組合ではありません。
この疑問は、条文をたどると筋が通ります。憲法から順に読んでいくと、「できる/できない」がどこで分かれているのかが見えます。料金表を見比べても分からない部分がここに入っています。

出発点は憲法28条
団体交渉は、法律より上の階層で保障されています。
勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
働いている人が集まって、その集まりを通じて使用者と交渉することが、権利として置かれています。個人で会社に向き合うと立場の差が大きすぎるので、集まって交渉することを認めているという考え方です。
退職代行という言葉はもちろん出てきません。ただ、退職日や有給の消化をどうするかは労働条件の話なので、団体交渉の対象に入ります。
労働組合法6条が「委任を受けた者」まで広げている
憲法の保障を具体的にしているのが労働組合法です。交渉の権限について、こう定めています。
労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者は、労働組合又は組合員のために使用者又はその団体と労働協約の締結その他の事項に関して交渉する権限を有する。
読むべきところは「労働組合又は組合員のために」と「委任を受けた者」です。前者は、組合そのものの話だけでなく、組合員ひとりのための交渉も含んでいます。後者は、代表者本人でなくても、委任されていれば交渉できるということです。
ここまでで、組合が個人のために会社と交渉する土台ができています。
ただしこの土台は、労働組合法が適用される人にしか成り立ちません。公務員は条文で名指しの適用除外になっていて、事情が変わります。そちらは公務員には労働組合法が適用されないにまとめました。
弁護士法72条の「ただし書き」でつながる
一方で、報酬を受け取って他人の法律事務を扱うことには制限があります。
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
長い条文ですが、構造は「前段で禁止し、ただし書きで例外を開ける」という形です。
民間業者が有給や退職日の交渉を代わりにできないのは、前段に当たるためです。退職の意思を伝えることは事実の伝達なので前段には触れませんが、条件を詰める行為はここで止まります。
そして組合が交渉できるのは、ただし書きの「他の法律に別段の定めがある場合」に、さきほどの労働組合法6条が当たるからです。憲法28条から労働組合法6条を経て、弁護士法72条のただし書きに接続する。この3本のつながりが、「組合なら交渉できる」と言われている中身です。
依頼すると、その組合の組合員になる
条文をそのまま読むと、もうひとつ分かることがあります。組合が交渉できるのは「労働組合又は組合員のために」であって、無関係な人のためではありません。
つまり、組合が運営する窓口に依頼するということは、その組合に加入するということです。申し込みの流れに加入手続きが含まれていて、料金とは別に組合費がかかる場合があります。金額や、退職後に組合員のままになるのかどうかは窓口によって違うので、申し込む前に確認しておく項目になります。
料金の比較表には出てこない部分ですが、支払う総額に関わるうえ、加入という行為そのものを知らずに済ませてしまうのは避けたいところです。

会社は「知らない団体だ」と言って断れない
交渉を申し入れられた側にも決まりがあります。労働組合法7条は使用者の禁止行為を並べていて、その2号が団体交渉の拒否です。正当な理由がないのに、雇っている労働者の代表者との団体交渉を拒むことは、不当労働行為に当たるとされています。
会社が「そんな組合は知らない」と応じない、という不安はよく聞きますが、応じるかどうかは会社の裁量ではありません。組合を通す意味は、法的な後ろ盾があることそのものです。
争う段階に入ると弁護士だけになる(民事訴訟法54条1項)
では組合と弁護士は同じかというと、境目があります。訴訟の代理人については別の条文が置かれています。
法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ訴訟代理人となることができない。ただし、簡易裁判所においては、その許可を得て、弁護士でない者を訴訟代理人とすることができる。
交渉のテーブルに着くところまでと、裁判で争うところからは別だ、ということです。未払いの残業代や退職金について、話し合いで折り合えばそこで終わりますが、折り合わずに請求を通そうとする段階に入ると、扱えるのは弁護士に限られます。
だから選び方は、金額の大小ではなく交渉の中身がどこまで行きそうかで決まります。有給を消化して退職日を決めたいだけなら組合の範囲で収まります。支払われていないお金があり、会社が争う姿勢を見せているなら、最初から弁護士のほうが乗り換えの手間がありません。
有給そのものについて会社と何を根拠に話すかは退職前の有給消化|断られたときの根拠に、実際の窓口を運営元で並べた比較は退職代行の窓口を運営元で選ぶ|4社比較にまとめています。
未払いの残業代を請求する場合、争点になるのは記録の有無です。タイムカードが手元に無くても、証拠として扱われうるものは他にあります。集め方は残業代の証拠がないときに整理しました。
窓口の運営元を見て選ぶ
以上を実際の窓口に当てはめると、確かめるのは運営元の種別です。
弁護士法人ガイア総合法律事務所は弁護士が対応する事務所です。有給消化と、離職票や源泉徴収票の取り寄せに加えて、残業代や退職金の請求まで行うと公式サイトに記載があります。上の区分でいえば、ただし書きを通る側ではありません。
円満退職ユニオンは労働組合法人が運営しています。主な対応内容として、退職の意思の通知・退職日の調整・有給休暇の取得についての協議・最終賃金の確認・必要書類の確認を挙げています。そのうえで、損害賠償請求や訴訟など法律上の争いが生じている場合は弁護士への相談が適しているとしています。この線の引き方は、この記事で見てきた条文の区分とそのまま重なります。
料金と対応範囲を並べた比較は退職代行の窓口を運営元で選ぶ|4社比較にあります。
まとめ
- 団体交渉は憲法28条が保障し、労働組合法6条が「組合員のために」「委任を受けた者」まで広げている
- 弁護士法72条は前段で禁止し、ただし書きで例外を開ける形になっている。組合の交渉はこのただし書きを通る
- 民間業者が条件の交渉を代わりにできないのは、この前段に当たるため
- 組合の窓口に依頼することは、その組合に加入すること。組合費と退職後の扱いを先に確認する
- 正当な理由のない団体交渉の拒否は、労働組合法7条2号の不当労働行為に当たるとされている
- 訴訟の代理人は弁護士に限られる。争う段階まで行きそうなら最初から弁護士を選ぶ
条文の解釈は個別の事情で変わります。自分のケースで何が頼めるかは、依頼する前に窓口へ具体的に伝えて確認してください。
避けられるデメリットと避けられないデメリットの分け方は退職代行のデメリットを2つに分けるにまとめました。
前段に当たったときに誰がどんな罰を受けるかは、72条ではなく77条以下に書かれています。依頼した側がそこに入っていないことも含めて、退職代行で逮捕されるのは誰かで条文を並べました。