記録を取っていなくても残業代は請求できるか
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残業代のことを思い出しても、「自分で記録を取っていなかったから無理だ」とそこで止まってしまう人がいます。サービス残業と呼ばれている状態です。
ただ、労働時間を記録するのは働く側の義務ではありません。 このページは、誰が記録を持っているはずなのかを厚生労働省の資料から確認します。
そもそも時間外労働をさせてよいのかという前提もあります。労働基準法32条は1日8時間・週40時間を超えて働かせることを禁じていて、それを外すには36協定の締結と届出が要ります。条文の並びは36協定の残業時間は月45時間・年360時間にまとめました。
記録するのは会社の側
ガイドラインが定めているのは、使用者が何をすべきかです。
【原則】使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること
主語は使用者です。 労働者が自分で記録することを前提にした制度にはなっていません。記録が無いとしたら、それは会社側の管理の問題として扱われます。
方法についても原則が示されています。
イ タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること
原則は客観的な記録です。 本人の申告を基礎にする方法は例外の位置づけで、その場合も実態調査や補正が求められます。

3年間は保存されているはず
作った記録をどうするかも決まっています。
事業者は、これらの方法により把握した労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存するための必要な措置を講じることも新たに義務づけられます(同第2項)。
3年間の保存義務があります。 辞めてから思い出した場合でも、会社側にはまだ残っている可能性があります。
期限の感覚は、請求できる期間とほぼ重なります。
賃金請求権についての消滅時効期間を賃金支払期日から5年(これまでは2年)に延長しつつ、当分の間はその期間は3年となります。
請求できるのが3年、記録の保存も3年です。 逆に言えば、3年を過ぎると請求権も記録も同時に失われていきます。思い出した時点で動くかどうかで結果が変わります。
手元に何も無くても材料はある
会社の記録に加えて、自分の側にも痕跡が残っていることがあります。
- 業務用メールやチャットの送信時刻
- 勤怠システムや経費精算システムのログイン履歴
- 入退館カードの記録
- 交通系ICカードの利用履歴
- 手帳やカレンダーの予定
始業と終業の時刻そのものでなくても、その時間に働いていたことを示す材料になります。複数を組み合わせると、実態に近い姿が出てきます。
ただし、会社を離れると社内システムには入れなくなります。在職中に手元へ残せるものがあるなら、その分だけ後の選択肢が増えます。辞めるときに何を受け取るかは退職の書類は受け取るものと返すものにまとめました。
自己申告で少なく書かされていた場合
「残業は申請しないルールだった」「上限を超える分は書くなと言われた」という状況もあります。
ガイドラインは、自己申告で把握する場合に会社がすべきことを定めています。入退場記録やパソコンの使用時間など事業場内にいた時間が分かるデータがあるのに、自己申告の時間と大きく離れているときは、実態調査をして補正するよう求められています。
つまり、申告書に少なく書いてあること自体が、そのまま結論にはなりません。客観的なデータとの食い違いは、会社側が説明すべき問題として扱われます。

「記録は無い」と言われた場合
会社に問い合わせて「そういう記録は残していない」と返ってくることがあります。ここで引き下がる必要はありません。
記録の作成と3年間の保存は、上で見たとおり会社に求められている措置です。無いのだとすれば、請求する側の落ち度ではなく、会社側が果たすべきことを果たしていない状態だということになります。「記録が無い」という回答は、請求を諦める理由にはならず、むしろ管理の状況を示す材料になります。
このとき効いてくるのが、前の節で挙げた自分の側の痕跡です。会社の記録が出てこない場合でも、メールの送信時刻や入退館の履歴が残っていれば、働いていた時間の輪郭は示せます。片方が無いことと、何も示せないことは別です。
なお、記録の有無を確かめる連絡は、退職の経緯とは切り離して構いません。交渉を始める前の事実確認なので、そこで感情的なやり取りをする必要はありません。
会社が出してこないとき
記録の開示を求めても応じない場合、労働基準監督署(労基署)への申告という手段があります。労働時間の記録は監督署の調査対象になるため、自分で取り寄せる必要はありません。申告の手順と、監督署ができること・できないことは未払い残業代を労働基準監督署に相談するに整理しました。
相談だけで様子を見たい段階なら、総合労働相談コーナーが予約不要・無料で使えます。扱う範囲は退職相談は無料の公的窓口でできるにまとめています。
金額の計算で争いになりやすいところ
記録が揃っても、いくらになるかで意見が分かれることがあります。
論点争いになる理由
- 固定残業代何時間分を含むのか、超えた分が払われているか
- 管理監督者かどうか該当すれば深夜以外の割増は不要とされる
- 移動時間や待機時間指揮命令下にあったかどうかで扱いが変わる
- 持ち帰り仕事会社の指示があったかを示せるか
このあたりは監督署の是正指導だけでは決着しないことがあります。金額そのものを争うなら、交渉と立証を代理できるのは弁護士です。報酬を得る目的で法律事務を扱うことは弁護士法72条で制限されているため、民間業者や労働組合とは扱える範囲が違います。違いは退職代行|弁護士と労働組合の違いで条文をたどりました。
まとめ
- 労働時間を記録するのは使用者の義務。 働く側が記録していないことは前提を崩さない
- 原則は客観的な記録(タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間)
- 記録には3年間の保存義務がある
- 請求できる期間も当分の間3年。記録と同時に失われていく
- 自己申告で少なく書かされていても、客観データとの乖離は補正の対象
- 会社が出さない場合、労働時間の記録は監督署の調査対象になる
- 金額そのものに争いがあるなら弁護士の領域
「自分が記録していないから諦める」は、順序が逆です。まず会社に何が残っているはずかを確かめてください。