退職代行で逮捕されるのは誰か|弁護士法77条
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退職代行を調べていると、逮捕という言葉が出てきます。自分が頼んだら罪になるのか、という心配で読んでいる方が多いところです。
答えは条文に書いてあります。罰を受ける側として並んでいるのは事業者と弁護士で、依頼した人はどの条の対象にも入っていません。
禁止しているのは72条
はじめに、何が禁止されているかです。弁護士法72条はこう定めています。
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
主語は「弁護士又は弁護士法人でない者」です。条件は「報酬を得る目的で」あることと、それを「業とする」ことの2つ。
ただし書きの「他の法律に別段の定めがある場合」が、労働組合が交渉できる根拠です。そこは労働組合と弁護士では何が違うかで扱いました。

罰の重さは77条にある
72条そのものには罰が書かれていません。罰則は77条にまとめられています。同条の柱書はこうです。
次の各号のいずれかに該当する者は、二年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
そして3号に挙げられているのが、次の者です。
第七十二条の規定に違反した者
「違反した者」なので、対象は禁止を破った側です。 72条の主語が事業者なので、77条3号の対象も事業者になります。
会社にも罰金がいく
担当者が個人で罰を受けて終わり、とはなっていません。78条2項です。
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して第七十七条第三号若しくは第四号、第七十七条の二又は前条の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。
行為をした人を罰したうえで、その法人にも罰金を科す、という書き方です。こうした形は両罰規定と呼ばれます。
依頼する側から見ると、ここは実害の話につながります。事業者が止まれば、頼んだ手続きも途中で止まります。 逮捕されるかどうかより、こちらのほうが自分に返ってくる部分です。
書いただけでも条文に触れる
もう1つ、実際にやったかどうかを問わない条があります。74条2項です。
弁護士又は弁護士法人でない者は、利益を得る目的で、法律相談その他法律事務を取り扱う旨の標示又は記載をしてはならない。
「標示又は記載」なので、掲げること自体が対象になっています。罰は77条の2にあります。
第七十四条の規定に違反した者は、百万円以下の罰金に処する。
罰金だけで、拘禁刑は入っていません。72条違反より軽く置かれています。
これは業者を選ぶときに使えます。 実際に交渉するかどうかは頼んでみないと分かりませんが、サイトに何と書いてあるかは申し込む前に読めます。
未払い分の相談に応じると書いてある業者が、退職代行の労働組合は誰なのかを見ると民間の会社だった、という形はこの条に触れる書き方です。
報酬を条件にしていない条もある
72条は「報酬を得る目的で」が条件になっています。これに対して、その条件が付いていない条が隣にあります。73条です。
何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によつて、その権利の実行をすることを業とすることができない。
主語が「何人も」で、報酬の話が出てきません。禁じられているのは、他人の権利を譲り受けて、その権利を実行することを業とすることです。
退職代行で関係してくるのは、未払い分を扱う場面です。未払いの賃金は、働いた人が会社に対して持っている権利にあたります。これを事業者が譲り受けて自分で取り立てる形にすると、73条の側に入ります。
罰は72条違反と同じで、77条4号にまとめられています。つまり「代理はしません、買い取ります」と説明されても、別の条に移るだけで、扱いが軽くなるわけではありません。
未払い分の請求そのものをどこへ持っていくかは、未払い残業代の証拠と請求先にまとめました。
名前の付け方にも条がある
74条には、先ほどの2項の前に1項があります。
弁護士又は弁護士法人でない者は、弁護士又は法律事務所の標示又は記載をしてはならない。
法律事務所という表示そのものが対象です。さらに3項で、弁護士法人に類似する名称を用いることも禁じられています。
似た名前は実際に紛らわしく見えます。ただし、司法書士法人や行政書士法人は別の法律にもとづく名称なので、名前が似ていることだけで74条に触れると決めることはできません。見るのは名前ではなく、その事業者が何をすると書いているかです。

弁護士の側にも条がある
「弁護士監修」と掲げている業者を見かけます。監修そのものを禁じる条はありませんが、隣に27条があります。
弁護士は、第七十二条乃至第七十四条の規定に違反する者から事件の周旋を受け、又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならない。
事件を回してもらうことと、名前を使わせることの2つが並んでいます。27条違反の罰は77条1号で、72条違反と同じ重さです。
つまり弁護士の名前が出ていることは、その業者が交渉できることを意味しません。名前を貸すこと自体が、弁護士の側で禁じられている行為です。
依頼した側はどこにも出てこない
ここまでの条を並べると、こうなります。
報酬を得て法律事務を扱った事業者
- 72条・77条3号
法律事務を扱うと記載した事業者
- 74条2項・77条の2
周旋を受けた、名義を使わせた弁護士
- 27条・77条1号
依頼した人は、どの条の主語にも入っていない
依頼した人は、どの条の主語にも入っていません。 条文を読むかぎり、頼んだこと自体で罰を受ける立場にはなりません。
ただし、払ったお金がどうなるかは別の問題です。契約が有効かどうかは条文だけでは決まらないので、ここでは触れません。返金や解約でもめている場合は消費者ホットライン(188)が相談先になります。
心配する順番を入れ替える
逮捕という語で調べていると、そこが一番大きな risk に見えます。条文を追うと、依頼した側にとっての問題はそこではありませんでした。
見るところは、頼もうとしている相手が何をできるかです。交渉が必要な状況で交渉できない相手に頼むと、伝言だけで終わります。そのときに困るのは、条文の罰ではなく自分の退職の進み方です。
判断の材料は退職代行のおすすめは状況で違うにまとめました。実際に止まった場面は退職代行で起きたトラブルにあります。
種別が違えば、根拠になる法律が違う
このサイトが載せている2つは、運営元の種別が違います。
弁護士法人ガイア総合法律事務所は弁護士が対応します。上に引いた72条は「弁護士又は弁護士法人でない者は」で始まっているので、弁護士はこの禁止の対象そのものに入りません。
男の退職代行は合同労働組合が運営していて、根拠は労働組合の団体交渉のほうにあります。弁護士法72条とは別の法律の側から会社と話す形になります。
逮捕という語で心配する相手は、この2つのどちらでもありません。 心配が要るのは、どちらの根拠も持たないまま交渉すると書いている業者のほうです。料金と条件は窓口ごとに違うので、下の表で確かめてください。
まとめ
- 72条が禁じているのは、報酬を得て法律事務を業として扱うこと
- 罰は77条3号で、2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金
- 78条2項の両罰規定で、法人にも罰金が科される
- 74条2項は、法律事務を扱う旨を記載することも禁じている(罰は77条の2の罰金)
- 73条は、他人の権利を譲り受けて実行することを業とすることを禁じている(報酬の条件が無い)
- 74条1項は、法律事務所という標示そのものを禁じている
- 27条は、弁護士が非弁業者から周旋を受けることと名義を貸すことを禁じている
- 依頼した人は、これらの条の主語に入っていない
条文を確かめる先は弁護士法です。