転職エージェントはなぜ無料なのか
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無料なのは親切だからではない
転職エージェントは、求職者に料金を請求しません。面談も、求人紹介も、書類の添削も、無料で受けられます。
これを「サービスの一環」と説明されることがありますが、実際は法律でそう決まっているためです。厚生労働省の職業紹介事業の運営要領には、有料職業紹介事業者が受け取れる手数料が限定列挙されています。
有料職業紹介事業を行う者は、法第32条の3第1項第1号(受付手数料、上限制手数料及び第二種特別加入保険料に充てるべき手数料)及び第2号(届出制手数料)並びに第2項(求職者手数料)
同じ箇所には、これ以外にはいかなる名義でも実費その他の手数料または報酬を受けてはならない、と続きます。
条文そのものは職業安定法32条の3にあります。1項が手数料を取れる場合を2つに限り、2項が求職者からの徴収を切り離して禁じています。
有料職業紹介事業者は、前項の規定にかかわらず、求職者からは手数料を徴収してはならない。ただし、手数料を求職者から徴収することが当該求職者の利益のために必要であると認められるときとして厚生労働省令で定めるときは、同項各号に掲げる場合に限り、手数料を徴収することができる。
「前項の規定にかかわらず」なので、1項で認められた手数料であっても、相手が求職者なら取れないという書き方です。
つまり「無料でやってあげている」のではなく、取れないから取っていないというのが正確です。

費用は求人企業が払っている
では誰が払っているのか。上限制手数料の徴収先について、運営要領はこう書いています。
徴収の基礎となる賃金が支払われた日以降、求人者又は関係雇用主
求人者、つまり採用した企業です。
金額の決まり方は2種類あります。上限制手数料は上限が定められていて、運営要領には支払われた賃金額の100分の10.8(免税事業者は10.3)に相当する額を限度とする、と書かれています。
もう一方の届出制手数料については、こう書かれています。
厚生労働大臣に届け出た手数料表の額を徴収することができる
事業者が自分で届け出た表の額、という仕組みです。上限の定めはありません。
つまり、実際にいくら動くかは事業者ごとの届出内容によります。よく言われる「年収の3割」という数字は、この記事を書くにあたって確認した公的な資料には見つかりませんでした。根拠を確認できないため、金額の目安は書きません。
確かなのは、費用の出し手があなたではなく企業だということです。ここを知っているかどうかで、エージェントの言動の読み方が変わります。
求職者から取れる例外もある(職業安定法32条の3第2項)
ごく限られた職業では、求職者から手数料を取ることが認められています。
「芸能家」及び「モデル」の職業並びに「経営管理者」、「科学技術者」及び「熟練技能者」の職業について、その求職者より徴収できる
ただし経営管理者・科学技術者・熟練技能者については、紹介によって就いた職業の賃金が年収700万円を超える場合に限られると明記されています。
一般的な転職でこれに当たることはまずありません。「あなたの場合は手数料が必要」と言われたら、その根拠を確認してください。 上記の職種に該当しないなら、法令上の裏付けがありません。
利害がずれる場面がある
費用の出し手が企業である以上、エージェントの収益はあなたが入社して初めて発生します。 ここから、利害が一致する部分とずれる部分が両方生まれます。
一致するところ
- あなたが受かる会社を探す。受からなければ収益はゼロ
- 書類や面接の対策をする。通過率が上がれば成約に近づく
- 早期離職を避けたい。返金条項がある契約が多いため
ずれるところ
- 転職しないという結論には収益がつきません
- 求人票の枠に収まる転職ほど成立しやすい
- 手数料は年収に比例するため、年収が上がる案件が優先されやすい
これは不誠実という話ではなく、制度としてそういう設計になっているという話です。知らずに「中立の相談相手」と思って話すと、返ってくる答えの前提を読み違えます。
「返金条項」には法令上の名前がある(職業安定法施行規則24条の5)
上に「返金条項がある契約が多い」と書きました。これは慣習ではありません。職業安定法施行規則が名前を付けて定義しています。返戻金制度といいます。
返戻金制度(その紹介により就職した者が早期に離職したことその他これに準ずる事由があつた場合に、当該者を紹介した雇用主から徴収すべき手数料の全部又は一部を返戻する制度その他これに準ずる制度をいう。以下同じ。)に関する事項
早期に辞めると、企業が払った手数料の全部か一部が企業へ戻ります。だから入社後に連絡が来ます。 定着しないと、受け取った手数料が減るためです。
この連絡を「親切」と読むか「様子を見られている」と読むかは人によりますが、どちらにしても仕組みとして起きることです。
手数料表と返戻金は、見せることが義務になっている(規則24条の5第2項)
そしてこの2つは、事業者が中に隠しておけるものではありません。同じ規則にこうあります。
有料職業紹介事業者は、手数料表、返戻金制度に関する事項を記載した書面及び業務の運営に関する規程について、その事業所内の一般の閲覧に便利な場所への掲示、インターネットの利用その他の適切な方法により、情報の提供を行わなければならない。
掲示とインターネットの利用が並べてあります。自社サイトに載せる代わりに、事業所に貼っておく形でも足ります。厚生労働省も、令和6年4月からの扱いをこう案内しています。
有料職業紹介事業における手数料表、返戻金制度に関する事項を記載した書面等については、これまで事業所内へ掲示することが必要でしたが、令和6年4月1日からは自社のホームページなど、適切な方法により情報提供を行うことができることとしました。
つまりサイトに載っていないこと自体は違反ではありません。 ただ、載せている事業者なら先に読めます。面談の前に「手数料表と返戻金制度を見せてほしい」と言うこともできます。断られる理由が無いものなので、そこでの反応も判断材料になります。
だから使い分けになる
構造を踏まえると、こう整理できます。
求人の中身、書類の通過率、面接の受け答え
- 転職エージェント
今の会社の労働条件が法的にどうなのか
- 労働基準監督署の総合労働相談コーナー(無料)
辞めるべきかどうか
- どちらでもない
- 判断材料を自分で揃える
エージェントの収入は採用が決まったときに入るので、辞めるかどうかの判断は相手の利益と重なる
「辞めるべきか」をエージェントに聞くと、辞める前提の答えが返ってきやすい。これは担当者の問題ではなく、収益の発生条件がそうなっているためです。
在学中の学生向けの就活エージェントも、費用の流れはここで見たものと同じです。大学のキャリアセンターや新卒応援ハローワークとの根拠の違いは、就活エージェントとはに分けて整理しました。
在職中の労働条件そのものに問題がある場合は、退職前の有給消化|断られたときの根拠のように、まず制度を確認したほうが早いことがあります。
それでも面談の価値は大きい
構造を差し引いても、エージェントに聞く価値があるものはあります。自分では判断できないことです。
- 自分の経歴が、市場でどの求人に届くのか
- 退職理由の説明が、応募先にどう聞こえるか
- 書類のどこで落ちているのか
とくに2つ目は、一人で準備しても精度が上がりません。自分の説明が言い訳に聞こえるかどうかは、自分では聞き取れないためです。この点は退職理由を面接でどう伝えるかで扱っています。
費用は企業が払うので、相談した時点であなたに支払いは発生しません。 ここまで書いた利害のずれを踏まえたうえで、聞きたいことを絞って使うのが現実的です。

使うときに確認すること
- 対象年齢や対象者の条件。 エージェントによって扱う層が決まっています。対象外だと申し込んでから断られます
- 紹介される求人の範囲。 特定業界に強い会社と、幅広く扱う会社があります
- 連絡の頻度。 在職中は、連絡の取りやすさが進行速度に直結します
- 求人票と労働条件通知書が一致しているか。 内定後に必ず照合してください
4つ目は最後に効きます。求人票の内容と実際の条件が違っていた場合の扱いは、労働条件通知書で確認する項目にまとめています。
なお、1つ目と2つ目は申し込む前に自分で調べられます。 就職者数と入社6か月以内の離職者数、職種ごとの平均手数料率は、厚生労働省のサイトで公開が義務づけられています。上で「年収の3割は確認できなかった」と書いた金額も、事業者ごとの実績値なら出ています。調べ方は実績は人材サービス総合サイトで見られるに整理しました。
研修と就職先の紹介をまとめて無料で案内する窓口も同じ枠組みで見られます。無料の職業紹介にも許可が要るので、そこを確認の起点にできます。条文は未経験のIT転職は許可番号を確認するにまとめました。
講座と紹介をまとめて無料にしている窓口の確かめ方
JAIC就職カレッジは、紹介の前に講座を挟む形を取っています。
社会人の基本的な考え方から、 内定に直結するスキルまでを網羅した、無料の就職支援講座を用意しています。
講座の代金を求職者が払わないなら、費用は上で見たとおり求人企業の側から出ています。つまり講座が付くこと自体は、料金の出どころを変えていません。
ここで確かめる先は許可です。2026年9月2日にトップページと会社情報ページを読みましたが、そこには許可番号がありませんでした。会社情報ページに出ているのは、上場企業であることと証券コード7073までです。
許可番号が窓口のサイトに見つからないときは、こちらから引けます。人材サービス総合サイトは事業者名で検索できます。許可の有無と番号はそこで確かめられます。手順は実績は人材サービス総合サイトで見られるにあります。
転職サイトが無料な理由は、条文が違う
同じ「無料」でも、転職サイト(求人サイト)とエージェントでは根拠にしている条文が別です。ここを混ぜると、確かめる先を間違えます。
エージェント(有料職業紹介事業者)のほうは、職業安定法32条の3第2項にこう書かれています。
有料職業紹介事業者は、前項の規定にかかわらず、求職者からは手数料を徴収してはならない。ただし、手数料を求職者から徴収することが当該求職者の利益のために必要であると認められるときとして厚生労働省令で定めるときは、同項各号に掲げる場合に限り、手数料を徴収することができる。
求人サイトは職業紹介ではないので、この条文の対象になりません。代わりに置かれているのが、2022年の改正で入った枠組みです。まず4条11項に定義があります。
この法律において「特定募集情報等提供」とは、労働者になろうとする者に関する情報を収集して行う募集情報等提供をいう。
求職者の情報を集めているかどうかが分かれ目です。会員登録して経歴を入れる形の求人サイトは、ここに当たります。そのうえで43条の2第1項で届出が求められています。
特定募集情報等提供事業を行おうとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、氏名又は名称及び住所その他の厚生労働省令で定める事項を厚生労働大臣に届け出なければならない。
そして43条の3に報酬についての条文があります。
特定募集情報等提供事業者は、その行つた募集情報等提供に係る労働者の募集に応じた労働者から、当該募集情報等提供に関し、いかなる名義でも、報酬を受けてはならない。
転職サイトも、応募した人からお金を取ることはできません。つまり無料なのはサービスの方針ではなく、どちらも法律で決まっているためです。
読み比べると差もあります。エージェント側の条文には「求職者の利益のために必要と認められるとき」という例外のただし書きが付いています。実際に芸能・モデルなどの職業が省令で挙げられています。一方、求人サイト側の条文にその例外はありません。
求職者に料金を請求できる相手もいる
ここまでの2つの条文は、職業紹介と募集情報等提供にかかるものです。どちらにも当たらない相手には、この禁止が及びません。
転職の指導だけを行うスクールがそれにあたります。求人を紹介するのでも、求人情報を提供するのでもないので、受講料という形で利用者本人が払います。
20代向けの「ホワイトアカデミー」を運営するAvalon Consulting株式会社は、料金について公式サイトでこう書いています。
はい。授業料という形で料金がかかります。
金額は書かれていません。このページにも運営会社の情報ページにも、受講料の数字は出てきませんでした。確かめるには無料相談会で聞くことになります。
返金の制度についてはこう書かれています。
当スクールのカリキュラムを消化したにも関わらず、ホワイト企業総合研究所が認定した「ホワイト企業」の内定を1社も獲得できなかった場合、授業料を全額返金いたします。
ここで見ておくのは、「ホワイト企業」を誰が決めているかです。同じページに説明があります。
ホワイト企業総合研究所が、約5万社の中から独自の調査で格付けを行っています。
ホワイト企業総合研究所は、運営会社の情報ページに同社の事業として挙がっています。つまり返金の条件になる基準を、サービスを提供する側が決めています。 良い悪いの話ではなく、条件の性質としてそうなっています。
対象年齢も書かれています。
当コースは「20代のキャリア形成」に特化したカリキュラムとなっており、メインの対象年齢は21歳〜29歳とさせていただいております。
無料の窓口と並べるときに見るところ
| 見るところ | 確かめ方 |
|---|---|
| 誰が費用を払うか | 職業紹介なら採用した企業。指導だけのサービスなら自分 |
| 職業紹介の許可があるか | 厚生労働省の人材サービス総合サイトで社名を引く |
| 金額と返金の条件 | 受講料の数字が書かれているか。無ければ相談の場で聞く |
許可や届出の調べ方は実績は人材サービス総合サイトで見られるに書いています。無料と有料のどちらが良いかではなく、払う人が違えば、返ってくる助言の前提も違うというだけです。
苦情を言う先は決まっている(職業安定法43条の7)
もうひとつ、読者が使える定めがあります。
募集情報等提供事業を行う者は、労働者になろうとする者、労働者の募集を行う者、募集受託者、職業紹介事業者その他厚生労働省令で定める者から申出を受けた当該事業に関する苦情を適切かつ迅速に処理しなければならない。
苦情を処理することが義務として書かれています。求人内容が実際と違った。担当者の対応に問題があった。そうしたときに、まず事業者へ申し出る道が用意されています。
続く条では、そのための体制を整えることも求められています。問い合わせ窓口が見当たらないサービスは、この点で確かめる価値があります。
エージェントを紹介するサービスは、届出の種類が違う
最近は「どのエージェントが自分に合うか」を先に相談する窓口もあります。ここまで書いた手数料の仕組みは、こちらにはそのまま当てはまりません。
確かめ方は同じで、厚生労働省の人材サービス総合サイトを見ます。このサイトは職業紹介事業のほかに、特定募集情報等提供事業の届出も検索できます。後者は2022年の改正職業安定法で届出制になったもので、求人情報を提供する事業が対象です。
たとえば転職エージェントナビを運営するcircus株式会社を調べると、職業紹介事業では全国・社名の部分一致で0件、特定募集情報等提供事業では届出(51-募-001506)が出てきます。求人を紹介する立場ではなく、求職者とエージェントを引き合わせる立場ということです。
どちらが良いという話ではありません。ただ、同じ「無料の窓口」に見えても、根拠になっている届出が違います。求人そのものを紹介してほしいのか、まず相手選びから相談したいのかで、行き先が変わります。
なお、第二新卒歓迎の求人に応募する場合は、エージェントを通しても会社が答えなければならない情報があります。中身は第二新卒は離職者数を聞けるにまとめました。
登録したあとに渡す情報の範囲も、職業安定法が決めています。目的を明らかにして集めることまで条文にあるので、答えにくい質問には聞き返せます。転職エージェントに渡す情報の範囲にまとめました。
まとめ
- エージェントが求職者から料金を取らないのは、職業安定法で原則禁止されているため
- 費用は採用した企業が払う。金額は上限制手数料か、届け出た手数料表の額で決まる
- 求職者から取れるのは芸能家・モデルと、年収700万円超の経営管理者・科学技術者・熟練技能者に限られる
- 収益は入社で発生するため、「転職しない」という結論には収益がつかない
- 求人と選考の相談には向く。辞めるべきかの判断には向かない
労働条件そのものに疑問がある場合は、都道府県労働局や労働基準監督署の総合労働相談コーナーが無料の相談窓口になります。