労働条件通知書で確認する項目
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辞めた理由が次でも起きないようにする
一度辞めた人が次の職場を選ぶとき、最も避けたいのは同じ理由でまた辞めることです。
面接で「残業は少ない」「転勤はない」と説明されても、口頭のやり取りは後から確認できません。書面で確認できる唯一の機会が、内定後に渡される労働条件通知書です。
ここを読み飛ばすと、入社後に「聞いていた話と違う」となったときに、何が違ったのかを示す材料が残りません。

2024年4月から確認できることが増えた
労働条件の明示ルールは2024年(令和6年)4月に改正され、書面で示される項目が増えました。熊本労働局は、全ての労働契約の締結時と有期労働契約の更新時に追加された項目をこう説明しています。
就業場所・業務の変更の範囲
これは、入社直後の勤務地や仕事の内容だけでなく、将来の異動や職種変更の可能性まで示されるということです。
改正前は「雇入れ直後」の就業場所と業務だけが明示対象でした。「勤務地:本社」とだけ書かれていて、3年後に地方支社へ異動になっても、書面上は矛盾していませんでした。
現在は変更の範囲まで書かれるため、転勤の可能性があるのかどうかを入社前に読み取れます。
有期契約の場合はさらに項目がある
契約社員など期間の定めがある契約では、締結時と更新時に次も明示されます。
更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容
「更新は最大3回まで」「通算5年まで」といった上限があるかどうかです。上限があるなら、その契約は何年後かに終わることが決まっています。
無期転換申込権が発生する契約の更新時には、無期転換申込機会と無期転換後の労働条件も明示の対象になります。
優先して見る7項目
労働条件通知書は情報量が多く、全部を同じ重さで読むと疲れます。転職で問題になりやすいのは次の項目です。
項目見るポイント
- 就業場所とその変更の範囲転勤があるか範囲が「会社の定める場所」だけなら実質無制限
- 業務内容とその変更の範囲職種変更があり得るか
- 始業・終業時刻、休憩運用と一致しているか面接で聞いた内容と照合
- 所定時間外労働の有無「有」なら残業は前提無いとは限らない
- 賃金の内訳固定残業代が含まれるか含まれるなら何時間分か
- 契約期間と更新上限いつまで働けるか有期契約なら決まっている
- 退職に関する事項申し出の期限
特に注意したいのが賃金の内訳です。 「月給28万円」と提示されていても、そのうち5万円が45時間分の固定残業代なら、基本給は23万円です。45時間の残業が前提の設計だという意味でもあります。
面接で聞いた金額と、通知書に書かれた基本給が食い違っていないかを必ず照合してください。
試用期間が設けられている場合は、その期間の長さと、期間中の賃金が本採用後と違うのかどうかも書面で確認できます。入社してからの扱いは試用期間中の解雇|14日を境に変わるに整理しています。
必ず書かれる項目と、定めがあるときだけの項目
「絶対的記載事項」と呼ばれるものがあります。根拠は労働基準法施行規則5条で、同条3項がこう定めています。
法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める事項は、第一項第一号から第四号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)とする。
1号から4号は、契約の期間、就業の場所と業務(変更の範囲を含む)、始業と終業の時刻や休憩・休日、賃金の決定と支払方法、そして退職に関する事項です。この範囲は、書面などで明示することが義務づけられています。
一方で、退職手当・賞与・食費の負担・安全衛生・表彰と制裁・休職などは、会社にその定めがあるときだけ明示すればよい項目です(同条1項ただし書)。書かれていないこと自体は、決まりに反しているとは限りません。
雇用契約書との違い
似た書類に雇用契約書があります。届く場面も内容も重なるので混同されますが、法律の側での扱いが違います。
労働条件通知書は、労働基準法15条1項が使用者に義務づけている明示のための書類です。出さないこと自体が法律違反になります。
いつもらうものかも、同じ条文に書かれています。
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
「労働契約の締結に際し」です。働き始めてからではありません。後段は、賃金や労働時間などについて厚生労働省令の定める方法で示すことを求めています。その方法は施行規則5条で書面の交付とされていて、中身は上に並べたとおりです。内定の通知と同時に届くこともあれば、契約書と一緒に渡されることもあります。入社日を過ぎても受け取っていないなら、その時点で15条1項が守られていないことになります。
雇用契約書は、労働契約を結んだことを両者で確認する書類です。労働契約法6条はこう定めています。
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
合意で成立すると書かれていて、書面は要件になっていません。 雇用契約書を作る義務を定めた条文もありません。
だから2つの違いはこうなります。
- 労働条件通知書:会社が出す義務がある。署名は要らない
- 雇用契約書:義務ではない。両者が署名や記名押印をする
「労働条件通知書兼雇用契約書」という1枚にまとめた書式もあります。 その場合は署名を求められますが、署名したからといって書かれた条件が事実と違ってよいことにはなりません。15条2項の即時解除は、署名の有無に関わらず使えます。
書面でなくてよい場合がある
同じ5条の4項に、明示の方法が書かれています。
法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。
続くただし書で、労働者が希望した場合はファクシミリか電子メール等でもよいとされています。条件は、受け取った側が出力して書面を作れることです。
だからPDFがメールで届く形も、こちらが希望していれば決まりに沿っています。希望していないのに口頭だけで済まされている場合は、書面の交付を求められます。
「変更の範囲」の書かれ方で読み分ける
変更の範囲は、書き方によって意味が大きく変わります。
- 「本社」 — 変更の予定がない
- 「本社および〇〇支社」 — その範囲内での異動があり得る
- 「会社の定める全ての事業所」 — 実質的に制限がない
3つ目の書き方は違法ではありませんが、転勤の可能性が広いという情報として読むべきです。 面接で「転勤はない」と言われていた場合、口頭の説明と書面が食い違っています。
食い違いに気づいたときは、入社前に確認するのが最も安全です。「書面ではこうなっていますが、認識に相違はないでしょうか」と聞いておけば、記録が残ります。

条件が違っていたときにできること
それでも、入社後に条件が違うと分かることがあります。この場合の選択肢は、厚生労働省の「確かめよう労働条件」に示されています。
実際の労働条件が当初約束した労働条件と違っているような場合には、労働条件が約束どおりになっていないことを理由に、即時に退職することができます(労働基準法15)
通常の退職は申し入れから2週間かかりますが、このケースは即時に退職できるとされています。 ただし、約束と違ったことを示せるかどうかが前提になります。労働条件通知書を保管しておく実益はここにあります。
この即時解除の扱いは退職代行で即日辞められる?法律上の線引きで詳しく整理しています。
なお、求人票と労働条件通知書は別の書面で、それぞれ根拠が違います。求人票のほうは職業安定法が明示を義務づけていて、条件を変えて契約する場合は変更内容の明示が必要とされています。黙って変えることが禁じられている、という形です。見るべき順序は求人票の見方|違う条件なら明示義務があるに整理しました。両方を保管しておくと照合できます。
通知書が渡されない場合
内定後に労働条件通知書が渡されない、あるいは入社当日まで見せてもらえないことがあります。
労働条件の明示は使用者の義務です。渡されない状態で入社を決めるのは、条件を確認せずに契約するのと同じことになります。内定承諾の前に書面での提示を求めるのが本来の順序です。
求めても出てこない場合、その対応自体が入社後の運用を示す材料になります。都道府県労働局やハローワークは、求人条件に関する相談窓口を設けています。
通知書を待っている間に内定そのものを取り消されることもあります。このとき、入社前だから何も言えないという扱いにはなりません。内定の段階で労働契約が成立していると認められることが多く、取消しは解雇として扱われます。理由の開示を求めるところから始まる手順は内定取り消しは解雇にあたるに整理しました。
前職の退職手続きと並行するとき
在職中に転職活動をしている場合、内定後は前職の退職手続きと並行することになります。
内定先には入社可能日を伝える必要がありますが、この日付は前職の退職日と有給の残日数で決まります。先に入社日を約束してしまうと、有給を消化しきれなくなることがあります。
順序としては、退職日と有給消化の見通しを立ててから入社日を確定させるほうが、取りこぼしが起きません。
- 退職日の決め方と手続き — 仕事を辞めてから転職するか、在職中に動くか
- 有給が消化できないと言われた場合 — 退職前の有給消化|断られたときの根拠
- 入社してから有給が付くまでの期間 — 有給休暇の付与日数|転職先では6か月から
3つめは入社日を決めるときに効きます。前職で20日あった人でも、新しい職場では法律上は6か月後に10日から数え直しになります。ただしこれは下限で、就業規則がこれを上回ることは差し支えありません。入社時に早く付与されるかどうかも、この通知書と就業規則で確認できます。
書面を見て辞退を決めることもあります。辞退そのものは厚生労働省が「基本的に問題ない」と示していて、履行を強制されることはありません。線引きは内定辞退で損害賠償を求められるかに整理しました。
提示された年収に何が含まれるかは、明示の対象として省令に並んでいます。月給・賞与・退職手当は3つの別項目です。年収交渉は明示される項目で話すにまとめました。
条件が出ていない段階で返事を求められたときの扱いは、内定の承諾期限は待ってもらえるかにまとめました。
試用期間を延長すると言われたときは試用期間を延長すると言われたらにまとめました。
まとめ
- 口頭の説明は後から確認できない。書面で確認できる機会は労働条件通知書
- 2024年4月から「就業場所・業務の変更の範囲」が明示事項に加わった
- 変更の範囲が「会社の定める全ての事業所」なら、転勤の可能性は広い
- 有期契約では更新上限の有無が明示される。いつまで働けるかが分かる
- 賃金は内訳を見る。固定残業代が何時間分かで、実際の基本給が変わる
- 条件が約束と違った場合、即時に退職できるとされている。書面の保管が前提
求人条件について疑問がある場合は、ハローワークや都道府県労働局が相談窓口になります。
実際に条件が違っていた場合に何ができるかは労働条件が違うときに退職できるかにまとめました。
通知書そのものが出てこないとき
15条1項の明示は義務なので、書面が交付されないこと自体が問題になります。まず労働基準監督署の総合労働相談コーナーに持ち込めます。費用はかかりません。
そのうえで、明示された条件と違うことを理由に何かを求める段になると、報酬を得て代わりに交渉できるのは弁護士だけです。根拠は弁護士法72条で、運営元ごとの違いは退職代行|弁護士と労働組合の違いにまとめました。
先に、求人票と通知書と実際の3つを並べて手元に置いてください。どこが食い違っているかが決まらないと、どの窓口でも判断ができません。