試用期間中の本採用拒否と社会保険
入社してからが不安になる期間
転職先が決まって入社すると、多くの会社では最初の数か月が試用期間とされています。
このときに不安になるのは、たいてい次の2つです。「うまくいかなければ簡単に切られるのではないか」と、「保険の手続きは入社時にしてもらえるのか」。
前の職場を辞めた直後の人にとって、どちらも実害が大きい論点です。ここでは、公的機関のページに書かれている内容だけを使って、どこまでが決まっていることなのかを整理します。
試用期間中でも社会保険には入る
先に、手続きのほうから片付けます。
「試用期間が明けてから社会保険に加入する」という説明を受けることがありますが、加入するかどうかを決めているのは試用期間かどうかではありません。 日本年金機構は、厚生年金保険の被保険者について次のように説明しています。
試用期間中でも報酬が支払われる場合は、使用関係が認められることとなります。
つまり、判断されるのは報酬が支払われる使用関係があるかであって、呼び方が試用期間であることは理由になりません。同じページでは、被保険者資格が雇用契約書の有無とは関係ない旨も書かれています。
ここが実害につながるのは、加入手続きが遅れると、その期間は自分で国民健康保険と国民年金を払うことになるからです。前職を辞めてから間が空いた人ほど、切替の手続きが二重になります。
退職直後の切替そのものは退職後の健康保険と年金|20日と14日に整理してあります。入社後1〜2か月経っても保険証や資格情報の案内が来ないときは、会社に手続きの状況を聞いてください。
「試用期間中は自由に辞めさせられる」は正しくない
次に、本採用拒否のほうです。
厚生労働省の「確かめよう労働条件」には、試用期間についての基本的な方向性が示されています。
試用期間である以上、解約権の行使は通常の場合よりも広い範囲で認められますが、試用期間の趣旨・目的に照らし、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当とされる場合にのみ許されます。
この1文は2つのことを同時に言っています。 どちらか片方だけを取り出すと、実態からずれます。
- 通常の解雇より広い範囲で認められる — 試用期間には適性を判断する目的があるため
- ただし客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当とされる場合にのみ許される
「試用期間中は自由に解雇できる」も、「試用期間でも通常の解雇と全く同じ」も、どちらも前半か後半を落とした説明になっています。
実際に問題になるのは、この幅のどこに当たるかです。適性の判断という目的に照らして説明できる理由なのかどうかが分かれ目になります。
雇入れから14日を境に手続きが変わる
理由の話とは別に、手続きの面では日数で線が引かれています。
茨城労働局は、解雇の予告について次のように説明しています。
使用者は、労働者を解雇しようとする場合には、30日以上前に予告するか、又は平均賃金の30日分以上(以下、解雇予告手当という)を支払わなければならない。
そのうえで、予告が要らない例外の1つとして次を挙げています。
試用期間中の労働者で、雇入れ後14日を超えない場合。
読み方はこうなります。
| 時期 | 解雇の予告・予告手当 |
|---|---|
| 雇入れ後14日を超えない | 例外に当たり、予告も予告手当も要らない |
| 雇入れ後14日を超えた | 試用期間中でも、予告または予告手当が必要 |
注意したいのは、これが「14日までなら理由は問われない」という意味ではないことです。予告の手続きが要るかどうかの話であって、前の節の「客観的に合理的な理由」とは別の条件です。手続きが免除されても、解約権の行使そのものが許されるかは別に判断されます。
同じページでは、解雇の予告をされた日から退職の日までの間に労働者が解雇の理由の証明書を請求した場合、使用者は遅滞なくこれを交付しなければならないことも示されています。理由を口頭でしか言われていないときは、書面で請求できます。
試用期間の長さにも限度がある
「試用期間は1年」「様子を見てさらに延長する」と言われることがあります。長さについても記載があります。
試用期間中の労働者は不安定な地位に置かれることから、その適性を判断するのに必要な合理的な期間を越えた長期の試用期間は、公序良俗に反し、その限りにおいて無効と解されます。
何か月までなら適法か、という数字は示されていません。基準は日数ではなく「適性を判断するのに必要な合理的な期間」かどうかです。同じページで紹介されている裁判例では、既に適性を判断できる期間を経ている人に、さらに同じ基準の選考を重ねる合理的必要性が否定されています。
延長を告げられたときは、何を判断するための延長なのかを確認しておくと、後から経緯を説明できます。
なお、試用期間かどうかにかかわらず、年次有給休暇は雇入れの日から6か月の継続勤務で発生します。数え方と、前職の残日数がどうなるのかは転職先で有給が使えるようになる日に整理しています。
労働条件通知書に何と書かれているかを見る
ここまでの話は、自分の契約がどうなっているかが分からないと確認しようがありません。
試用期間の有無・期間・その間の賃金は、入社時に渡される書面に記載されます。面接で聞いた条件と書面が食い違っていないかは、入社直後に確認しておくのが最も早いタイミングです。 見るべき項目は内定時に労働条件通知書で確認する項目にまとめてあります。
試用期間中の賃金が本採用後より低く設定されている場合、その旨も書面に書かれているはずです。書かれていない減額は、書面と実態が違うということになります。
ここでは書かないこと
本採用を拒否されたあとの失業給付の扱い(離職理由がどう判定されるか、給付制限が付くか)は、このページでは書きません。
離職理由の判定は提出された資料をもとにハローワークが行うもので、公的な資料で一律の答えを確認できませんでした。確かめられないことを書けば、それを信じて動く人が出ます。 該当する場合は、離職票を持って住所地のハローワークで確認してください。
なお、給付の手続き全体で必要になる求職活動の実績については失業給付の求職活動実績|何が数えられるかに整理しています。
まとめ
- 社会保険に入るかどうかは「試用期間かどうか」では決まらない。報酬が支払われる使用関係があるかで判断される
- 加入手続きが遅れた期間は、自分で国民健康保険と国民年金を払うことになる
- 本採用拒否は、通常の解雇より広い範囲で認められるが、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が要る。片側だけを取り出した説明に注意する
- 雇入れ後14日を超えると、試用期間中でも解雇の予告か予告手当が必要になる
- 14日を超えないことは手続きの例外であって、理由が要らないという意味ではない
- 解雇の理由の証明書は、請求すれば交付される
- 試用期間の長さは、適性を判断するのに必要な合理的な期間を越えると無効と解される
入社した会社での扱いに疑問があるときは、都道府県労働局や労働基準監督署の総合労働相談コーナーが窓口になります。