労働条件が違うときは即時に退職できる
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入社してから「聞いていた話と違う」と気づくことがあります。基本給の額、みなし残業の扱い、勤務地、配属先。
まず、そういう状態がどれくらい起きているのかを数字で見ます。
転職して賃金が減った人は29.4%
厚生労働省の雇用動向調査に、転職した人の賃金がどう動いたかが出ています。
令和6年1年間の転職入職者の賃金変動状況をみると、前職の賃金と比べ「増加」した割合は 40.5%、「減少」した割合は 29.4%、「変わらない」の割合は 28.4%となっている。
増えた人が4割で、減った人が3割です。さらに内訳を見ると、「1割以上の増加」が29.4%、「1割以上の減少」が21.7%でした。大きく上がる人と大きく下がる人が、どちらも一定数います。
年齢で分けると形が変わります。令和6年の「増加-減少」の差です。
年齢増加-減少の差
- 20〜24歳+33.7増加 50.5% / 減少 16.8%
- 25〜29歳+17.1増加 46.3% / 減少 29.2%
- 30〜34歳+21.9増加 46.1% / 減少 24.2%
- 35〜39歳+21.2増加 45.5% / 減少 24.3%
- 55〜59歳-9.2増加 27.4% / 減少 36.6%
- 60〜64歳-47.3増加 13.6% / 減少 60.9%
20代から30代は増えるほうが多く、55歳を超えると逆転します。
この表の対象にも断りが付いています。調査の注記によると、集計しているのは転職した人のうち前の職場で雇われていて、調査の時点でも在籍している人です。自営業から転職した人は入っていません。転職して短期間で辞めた人も、調査の時点で在籍していなければ数に入らないことになります。つまりここに出ている割合は、続いている人だけを見た数字です。
ただしこれは全体の分布で、自分の契約とは別の話です。 統計がどうであれ、契約のときに示された条件と実際が違うなら、それは別の問題になります。

明示する義務は法律にある
労働基準法15条1項です。
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
「明示しなければならない」で、努力義務ではありません。何を書くかは厚生労働省令が決めています。書面の見方は労働条件通知書で確認する項目にまとめました。
明示する中身は省令にある
何を明示するかは労働基準法施行規則5条1項が並べています。そのうち1号の3がこう書かれています。
就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む。)
括弧の中の「変更の範囲」が入っています。つまり入社時点の勤務地と業務だけでなく、将来どこまで変わりうるかも書かれていることになります。
転勤や配置転換があるかどうかは、この欄で確かめられます。「配属先が聞いていたのと違う」という話は、変更の範囲に入っているかどうかで見え方が変わります。
同じ条文の2項に、こういう規定もあります。
使用者は、法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならない。
事実と違うものを明示すること自体が禁じられています。15条2項の即時解除は、この禁止に反した結果として労働者に与えられた手当てだと読めます。
違っていたら即時に解除できる(労働基準法15条2項)
同じ条文の2項が、違っていた場合を定めています。
前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
「即時に」と書かれています。民法627条1項の2週間を待つ必要はない、というのがこの規定の意味になります。2週間のほうの話は退職代行で即日辞められるかにあります。
使えるのは「明示された労働条件が事実と相違する場合」です。つまり比べる相手は、口頭の説明ではなく明示された条件になります。そこで書面が要ります。求人票と労働条件通知書の両方を残しておいてください。
引っ越していたら旅費が出る(15条3項)
あまり知られていないのが3項です。
前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
条件は3つあります。
- 2項で契約を解除したこと
- 就業のために住居を変更していること
- 契約解除の日から14日以内に帰郷すること
転勤や上京を伴う転職で条件が違っていた場合、帰るための旅費は会社が負担することになっています。 14日という期限があるので、解除を決めたら日程を先に決めることになります。

「違う」と言えるかを分けて考える
条文は使えますが、当てはまるかどうかの判断は簡単ではありません。
| 状況 | 15条2項に当たるか |
|---|---|
| 明示された基本給と実際の額が違う | 当たりうる |
| 明示された勤務地と違う場所に配属された | 当たりうる |
| 「いずれ昇給する」という口頭の話が実現しない | 明示された条件ではない |
| 業務が思っていたより大変だった | 条件の相違ではない |
3行目と4行目は、期待と実際の差であって、明示された条件との相違ではありません。ここを混ぜると、解除の根拠が無いまま辞めることになります。
判断に迷う場合は、自分で決める前に相談してください。各都道府県の労働局と労働基準監督署に総合労働相談コーナーがあり、無料で相談できます。法律上の判断や交渉が必要な場面では、弁護士に相談することになります。窓口の分け方は退職相談は無料の公的窓口でできるにまとめました。
解除する前にやること
即時に解除できるとしても、そのあとの生活は続きます。
- 雇用保険の資格取得と喪失がどうなるか
- 短期間で辞めた場合の失業給付の扱い
- 健康保険をどう繋ぐか
短期間の在籍でも手続きは同じように発生します。雇用保険被保険者証(雇用保険に入っていたことを示す書類)まわりは雇用保険被保険者証が届かないとき、保険証は入社したのに保険証が届かないにあります。
試用期間中であっても、労働契約はすでに成立しています。扱いは試用期間中に解雇されることはあるかにまとめました。
旅費を実際に払ってもらう段になったら
15条2項の解除も、帰郷の旅費も、条文にあるだけでは動きません。会社に対して求める人が要ります。明示された条件と違うという主張になるので、求人票や労働条件通知書の記載が材料になります。
報酬を得て他人の代わりに請求できるのは弁護士だけです。根拠は弁護士法72条で、労働組合が交渉できる範囲との違いは退職代行|弁護士と労働組合の違いにまとめました。
まず無料の窓口で、明示された条件と事実がどう違うかを整理してください。14日という期限があるので、迷っている間に旅費のほうは使えなくなります。
まとめ
- 令和6年に転職した人の賃金は、増加40.5%・減少29.4%・変わらない28.4%
- 20代から30代は増えるほうが多く、55歳を超えると減るほうが多くなる
- 労働基準法15条1項は労働条件の明示を義務づけている
- 明示された条件と事実が違えば、15条2項により即時に契約を解除できる
- 就業のために住居を変更していれば、解除から14日以内の帰郷にかかる旅費は使用者の負担
- 明示する中身は施行規則5条1項にあり、勤務地と業務は「変更の範囲」まで含む
- 比べる相手は「明示された条件」。口頭の期待や業務の大変さは対象にならない